開発者から見た HQ のビジネスのいいところ

退会が異様に難しいサービスの存在が度々話題になります。 退会ページが巧妙に隠されていたり、何十もの設問に答える必要がある、電話じゃなければだめ、など。 退会フローを複雑にすれば退会率は下がるので、おそらく退会率を KPI として課せられた人が指示をして実装しているのでしょう。 このとき背後には「ユーザーを不幸にすると利益が生まれる」構造が存在しています。

ここまで極端でなかったとしても、組織の利益が優先された結果誰かの幸福が構造的に無視されることはしばしば起こります。 記事のエクスポート機能を頑なに作ろうとしないブログサービスなどもこの範疇に含まれるでしょう。1

その点、HQ においてはユーザーを不幸にしても儲からないどころかむしろ損をするようになっているということは特筆すべきことではないかと感じています。2

ユーザーを不幸にすると損をするということ

HQ が提供するリモート HQ は端的に言えば BtoBtoC のレンタル業です。 導入企業の従業員は会社を経由して HQ から備品をレンタルし、HQ はその分の費用を企業からいただくというのが基本的な構造なのですが、この際請求対象となるのは実際にレンタルした分だけです。 これだけを見るとユーザーを騙してでもレンタルさせる動機があるように見えます。

一方でユーザーは備品を返却することができます。 返却されるとその分の輸送費用もかかるし、在庫を抱えることにもなりかなりの損が発生するので、レンタルした備品を速攻で返却されるのが HQ としては最も避けたいシナリオで、そんなことになるなら初めからレンタルされない方がよほどマシなのです。 ユーザーを騙して使えないものをレンタルさせてもメリットがないどころかデメリットしかありませんし、その結果満足度が低下して万が一にも会社単位で利用を終了するとなったら、その会社に所属する全ユーザーの全ての備品が降り掛かってきてそれこそ大惨事となります。

ここまでの話は顧客との契約の中に織り込まれているので、おいそれと反故にできません。

つまり、HQ においてはユーザーの幸福に全力投球することが最適解であるだけでなくそれをおろそかにしたら死ぬということです。 なのでバックログにユーザーを騙すためのチケットが入り込みにくい。 クソどうでもいい機能を作れと言われないというのは、開発者の幸福を考える上で案外大事なことなのではないかと個人的に思います。

道徳 AND 経済

道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である。 — 二宮尊徳

営利企業である以上利益を求めなければなりません。 いくら顧客中心だと声高に叫んでも、それがお金を産まないとしたらそれは無意味です。 つまり「で、HQ のビジネスは儲かるの?」という話なのですが、この点についてはあまりここでは語れないので、興味を持った方は直接話を聞きにきてください。

とりあえずここでは、寝言は言っていないつもりだし、その背後では技術が大きな役割を果たすんだということだけ書いておきます。

おわりに

顧客中心主義を掲げる会社は世の中に多くありますが、それを実践することは言うほど簡単ではありません。 HQ はビジネスの構造上顧客中心にならざるを得ない状況に自らをおいているというのは良い点だと感じています。

誰かを不幸にする機能を開発するために自分の人生を 1 秒だって使いたくはないのです。

Footnotes

  1. 他にも例えばオークションやフリマサービスを使った商品の高額転売が社会問題となっています。 転売を本気で取り締まっていないとしてサービス事業者の姿勢を批判する人もいるようです。 実際のところ、こうした企業がこの問題を本心でどう考えているのか外からは分かりませんし、それ自体はここでは大して重要ではありません。 重要なのは「転売が増えると(少なくとも短期的には)儲かるので、これらの企業には対策をサボる動機がある」ということです。 もしもこれが「転売されるほど損をする」状態だったとしたらどうでしょう。 実際に転売が撲滅できるかは分かりませんが、間違いなくこの問題に対する本気度は今とは全く異なるものになるはずです。

  2. そしてそんなビジネスを自らの意思で構築する人間が創業者であるということも。